武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社

第13回 柔らかい粒子

DLVO理論が対象とする粒子は表面が何も覆われていない裸の固体粒子である。しかし、自然界とくに生体系には、粒子表面を高分子電解質層で覆われた粒子が多く存在する。たとえば、細胞やバクテリアはシアル酸からなる厚さ10 nm程度の糖鎖の層で覆われ負に帯電している。このような粒子はソフトマターで覆われていることから、柔らかい粒子(soft particles)と呼ばれる(図1)。柔らかい粒子は固体のコア部分とイオン浸透性の高分子電解質の表面層から成る。柔らかい粒子は、自然界だけでなく様々な工業分野に登場する。


図1 高分子電解質の表面層とコアから成る柔らかい粒子.
柔らかい粒子は、表面層が無い場合、固体粒子になり、
粒子コアの無い場合、球状の高分子電解質になる。

図2 厚さdの表面層で覆われた柔らかい粒子(a)と固体粒子(b)の
表面周囲の電位分布ψ(x). ただし、xはコア表面からの距離

図2に柔らかい粒子の表面層(厚さd)を横切る電位分布ψ(x) の様子(a)を固体表面の場合(b)と比較して示した。いずれも、負に帯電し電位が負の場合である。dがDebye長κ-1より十分大きい場合、表面層の深部はDonnan電位ψDONに等しくなる。 表面層内に密度ρfixで電荷が分布し、かつ電位が低い場合ψDON = ρfixrεoκ2である(ここで、εr = 電解質溶液の比誘電率、εo = 真空の誘電率)。表面層の先端(x = 0)の電位を柔らかい粒子の表面電位ψoとよび、その大きさはψDONの半分になる。 固体表面の場合(a)の電位分布は表面電位ψoのみで特徴づけられるのに対して、柔らかい粒子の場合(b)、電位分布はDonnan電位ψDON = ρfixrεoκ2と表面電位ψoの二つの電位で特徴づけられることがわかる。 なお、表面電荷密度σ の固体粒子の表面電位はψo = σ/εrεoκである。ρfixが体積電密度で単位がm-3であるのに対して、σは表面電荷密度で単位はm-2である点が柔らかい粒子と固体粒子の大きな違いである。また、柔らかい粒子の場合、ψ(x)は表面層と外部溶液相の境界(x = 0)内外でDebye長κ-1の長さに渡って拡散構造をとり、決して不連続ではない。なお、表面層の厚さがκ-1に比べ十分厚い場合、コア表面の電荷の影響はx = 0の面まで届かず無視できる。

表面層内に価数Zの解離基が数密度Nで分布している場合、ρfix = ZeNである(ただし、e = 素電荷)。価数z, 数密度nの対称型電解質の場合、ψDON = (kT/ze)ZN/2znになり、Nが高いほど、あるいはnが低いほどψDONしたがってψoは高くなる。

電解質溶液を満たした容器を電解質イオンのみ通す半透膜で二分し、一方に膜を透過しない高分子電解質を入れると、膜を隔てて電Donnan電位が発生する。この電位が通常のDonnan電位であるが、実はここで述べたDonnan電位と全く同じものである。いずれも、高分子電解質をある領域(半透膜で囲まれた領域または帯電した表面層内部)に局在させることによって生じる。Donnan電位は第12回コラムで述べたように柔らかい粒子の静電相互作用において重要な働きをする。また、後述するが、柔らかい粒子の界面動電現象(電気泳動、電気浸透、沈降電位と速度等)においてもDonnan電位は本質的な役割をする。


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