武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社

第11回 Derjaguin近似

DLVO理論の成功の基にDerjaguin近似がある(第6回)。平行な2平板間の相互作用エネルギーの計算は簡単である。しかし、2球間の相互作用エネルギーの計算は一般に難しく、Derjaguin近似を用いて計算される。この近似では、2球(半径α、表面間距離H)間の相互作用エネルギーV(H)は平行2平板間(表面間距離h)の相互作用エネルギーVpl(h)(単位面積当たり)から、 V(H)=πα H Vpl(h)dhに従って求める。この式はH « α の近距離に有効であり、任意の相互作用に対して適用され、以下のように導かれる。

  

図1のように、球を平らな円環の表面をもつ中空円筒に分割し、向かい合う一組の円筒間の相互作用エネルギーを求め(これは平板間相互作用である)、すべての円筒間の対に関して総和を計算する。図1を参照して、距離hにある半径xの2つの円筒(円環の面積は2πxΔx)を考える。総和、積分の上限は∞で近似して、Δxを小さくすると(Δx → 0)、Σƒ(x)Δx → ∫ƒ(x)dx(ƒ(x)は任意の関数)であるから、xdx= (α/2)dhを用いて、以下のように得られる。



Derjaguin近似の厳密な検証は難しいが、以下に述べる2つの点で、近似の妥当性が確かめられる。 (i)2球(半径α、表面間距離H)間のvan der WaalsエネルギーはHamakerの方法で次式が得られる。



この式はH « αの近距離でDerjaguin近似から得られる式V(H) = -Aα/12Hに一致する。
(ii) 1個の球(半径α、表面電位ψo)の中心から距離Rにおける電位ψ(r)ψoが低電位の場合、線形化したPoisson-Boltzmann方程式の解ψ(r)= ψoαe-κ(R-α)/Rで与えられる。 Rが非常に大きいとき(R » α)、粒子は有効電荷Qeffをもつ“点電荷”のように振舞い、その電位分布は遮蔽されたクーロン電位ψ(R)= Qeffe-κR/4πεrεoRで与えられる。 したがって、Qeff= 4πεrεoαeκαψoである。 距離Rにさらに別の同種の球を置くと、2個の球の静電相互作用エネルギーは V(R)= Qeffψ(R)= 4πεrεoαeκαψo × ψoαe-κ(R-α)/Rで与えられる。 R= 2α + HH= 2球間の表面間距離)と置くと、V(H)= 4πεrεoα2ψo2e-κH/ (2α+H) となる。このように静電相互作用エネルギーを求める近似を2球に対する線形重畳近似と呼び、Rが大きいときに有効である。 ところが、H « αの場合、V(H)= 2πεrεoαψo2e-κHとなり、Derjaguin近似の結果に一致する。さらに、表面電位ψoを有効表面電位(第6回)で置き換えれば 、この式は表面電位が高電位でも適用できる式(第6回(2)式)に帰着する。このように、線形重畳近似(遠距離)とDerjaguin近似(近距離)のそれぞれの適用領域が重なっているために、Derjaguin近似の妥当性が証明された。



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