武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社

第37回 高分子電解質層で覆われた粒子(柔らかい粒子)は高塩濃度でも泳動する

第34回と35回コラムでは、電気的中性の高分子で覆われた粒子を考えたが、今回は高分子電解質からなる表面層で覆われた粒子すなわち柔らかい粒子(第13回コラム)の電気泳動を取り上げる。典型的な場合として、表面層の厚さが10 nm程度で電解質濃度があまり低くない場合、表面層より電気二重層が薄くなり、粒子コア表面の電荷の影響が表面層の先端まで届かず、その影響は小さい。以下では、電解質水溶液中にあってDebye長に比べて十分大きなサイズをもち、かつコア表面が帯電していない粒子の電気泳動を考える。この条件下では、粒子表面を平板とみなせる(図1)。

図1. 高分子電解質層で覆われた粒子コア

表面層に対して、Hermans-藤田理論と同じくBrinkman-Debye-Buecheモデルを適用すると、電解質水溶液(粘度η)中における粒子の電気泳動移動度μは電位が低い場合、次式で与えられることがわかる。

(1)

ここで、d は表面層の厚さ、1/κは電気二重層の厚さ(Debye長)、1/λはBrinkmanの遮蔽長、ρfix は表面層内における固定電荷密度である。たとえば、表面層における高分子セグメント上に価数Zの解離基がNで分布する場合、ρfix= ZeNある(ただし、e = 素電荷)。

図2. 柔らかい粒子の電気泳動移動度

図2にいくつかのλdに対するμκd依存を図示した。図2のμ*はμ*= μ/(ρfixd2/η)で定義される無次元化電気泳動移動度である。高塩濃度で電気泳動移動度が一定値をとることがわかる。この一定値は電気浸透流に由来し、(1)式の第2項で与えられる。ゼロでない極限値の存在は柔らかい粒子の大きな特徴である。固体粒子(第25回コラム)では、粒子の表面電荷が解離基に由来する場合、塩濃度増加とともに電気泳動移動度はゼロに近づく。ところが、柔らかい粒子の場合、(1)式の第2項は塩による遮蔽効果を受けず、塩濃度が高い場合も泳動する。なお、λ→ ∞では、高分子内部で電解質水溶液の流動が起こらないが、電解質水溶液が表面層内部に侵入できるため完全な固体とは異なる。この極限における電気泳動移動度は次式になる。

(2)

方、高分子電解質層の先端の電位(柔らかい粒子の表面電位ψoと呼ぶ)を計算すると

(3)

になるので、(2)式は次式になり、表面電位ψoをゼータ電位とみなせば、ちょうど、Smoluchowskiの式に一致する。

(4)

有限のλの場合に対しては、(1)式は (4)式に電気浸透流の寄与を加えた次式で良く近似できる。

(5)

(5)式は球状高分子電解質の場合、第36回コラムの(7)式に対応する。



お問い合わせ