武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社

第34回 粒子表面を中性高分子層で覆うと電気泳動移動度は低下する

電気的に中性な高分子層で覆われた粒子の電気泳動移動度の式は複雑である。今回は電解質水溶液中にあって電気二重層の厚さ1/κ(Debye長)に比べて十分大きなサイズをもつ粒子の電気泳動を考える。この条件下では、粒子表面を平板とみなし、電気泳動移動度は粒子の形状に依存しない(図1)。高分子層にBrinkman-Debye-Buecheモデルを適用する。電解質水溶液(粘度η, 比誘電率εr)中における粒子の電気泳動移動度μは次式で与えられる。

(1)

ここで、ζは粒子のゼータ電位、dは粒子表面における高分子層の厚さ、1/λはBrinkmanの遮蔽長、1/κはDebye長、εoは真空の誘電率である。図2にいくつかのλdに対するμκd依存を図示した。


図1. 中性高分子層(厚さd)で覆われた固体粒子
(ゼータ電位ζ)



図2. 中性高分子層で覆われた固体粒子の電気泳動移動度

図2のμ*はμ*=μ/(εr εo ζ/η)で定義され、粒子の電気泳動移動度μをSmoluchowskiの式で割った無次元化電気泳動移動度である。高分子層の無い裸の粒子ではd = 0であるから、(1)式はSmoluchowskiの式μ = εr εo ζ/η に帰着する。帯電粒子を中性の高分子層で覆うと、電気泳動移動度の大きさが一般に低下することがわかる。この低下は低塩濃度ではわずかであるが、高塩濃度では著しく、減少の割合は、(1)式から κd > 10では1/cosh(λd)であることがわかる。例えば、d=10nmの場合、1:1電解質(NaCl, KCl等)中では、0.1M以上でκd > 10になる。このような場合、粒子のゼータ電位は実質的にζ/cosh(λd)になる。 λ→∞の場合(高分子セグメントの密度が非常に高い場合)は、液体媒質が高分子層内を通過するときに受ける抵抗が無限大になり、高分子層内を液体が流れないので、高分子層が固体化するように思えるが、完全な固体の層とは異なる。Brinkman-Debye-Buecheモデルでは、電解質水溶液が高分子層中に浸透できるからである。λ→∞の場合,(1)式は次式に帰着する。

(2)

粒子のゼータ電位が$ζe^{-kd}$に変化することを意味する。これはちょうどすべり面がx=0の位置からx=dの位置まで、高分子層の厚さの分だけ水溶液側に向かって外側に移動したことに相当する(図3)。

図3. すべり面の移動
ゼータ電位が$ζe^{-kd}$に変化する


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