武田コロイドテクノ・コンサルティング株式会社

第38回 柔らかい粒子の電気泳動に対する粒子コアの表面電荷の影響

今回は帯電した粒子コアと高分子電解質の表面層からなる最も一般的な柔らかい粒子の電気泳動を取り上げる。電解質水溶液中にあってDebye長に比べて十分大きなサイズをもつ粒子の電気泳動を考える。この条件下では、粒子表面を平板とみなせる(図1)。

図1. 帯電した粒子コア(電荷密度σ)と高分子電解質層(電荷密度ρfix

電解質水溶液(粘度η)中における粒子の電気泳動移動度μは電位が低い場合は次式で与えられる。

(1)

ここで、dは表面層の厚さ、1/κは電気二重層の厚さ(Debye長)、1/λはBrinkmanの遮蔽長、ρfixは表面層内における固定電荷密度、σは粒子コアの表面電荷密度である。(1)式は第37回コラムの(1)式(高分子電解質層の寄与)に第34回コラムの(1)式(粒子コアの寄与)を加えたものである。なお、第34回コラムの(1)式において、ゼータ電位ζσを結ぶ式ζ= σ/εrεoκを用いてζを表面電荷密度σで置き換えてある(εr=溶液の比誘電率,εo=真空の誘電率)。


図2. 柔らかい粒子の電気泳動移動度.
粒子コアの表面電荷密度σの影響



図3. 柔らかい粒子の電気泳動移動度.
高分電解質層の電荷密度ρfixの影響



厚い高分子電解質層の場合(λd=10)と薄い高分子電解質層の場合(λd=1)について、それぞれ図2と図3にいくつかのσ/ρfixdまたはその逆数ρfixd/σの値(ρfixdは高分子電解質層の単面積当たりの総電荷量)に対するμκd依存を図示した。σρfixが同符号と異符号の両方の場合の結果である。図2と図3のμ*,μ**はμ*=μ/(ρfixd2/η),μ**=μ/(σd/η)で定義される無次元化電気泳動移動度である。それぞれの図は非帯電コアの場合(σ/ρfixd= 0)と非帯電高分子膜の場合(ρfixd/σ= 0)を基準(黒の太線)にしている。厚い高分子電解質層の場合(図2)、高塩濃度ではσの影響は高分子電解質層の表面まで届かず、その寄与は小さいが、低塩濃度では無視できないことがわかる。薄い高分子電解質層の場合(図3)、低塩濃度ではσのとρfixの影響は同等であるが、高塩濃度では、σの影響が遮蔽効果で消滅した後も、ρfixの影響すなわち電気浸透流の寄与は残る。



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